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クライアント

通常クライアントとは、設計を依頼くださった建築主の方です。オーナーとも言います。私ども設計事務所は、第一に建築主(オーナー)のために仕事をする訳ですが、大局的には建物の利用者やそのほか一定の関係者に対しても、設計した建物を通じて仕事をしていることになります。この意味で、彼らも直接のやりとりのないクライアントと言えます。良い建築デザインには、設計者が、これらの間接的クライアントを理解し、彼らの視点も含めながらデザインしていくことが欠かせません。


重度の自閉スペクトラム症など脳神経の変異を持った (以下、Neuro-divergent:NDと表記) 方々が日中過ごされる施設の場合は、NDの施設利用者、介護職員、そしてオーナーの福祉事業法人、これらの3つの集団からなる方々がクライアントに含まれることになります。


この施設のように脳神経の多様性に対応したデザインが求められるプロジェクトでは、まず訪問して介護職員の方々との面談やNDクライアントのご様子を観察することから始まります。この訪問で職員の方々から要望などを伺い、NDクライアントの感覚特性や日常的課題について調査します。


感覚過敏がある上、言葉によるコミュニケーションが困難なNDの方々はストレスに圧倒されることも珍しくないようで、拳や頭突きで所々壊された便所の壁がそれを物語っているかのようです。また、光、音などへの感覚過敏の一方、身体内部の感覚は鈍麻であったり、その日の調子によって感覚も影響を受けます。こうした感覚特性ゆえ、健常者には何ら問題なく綺麗に感じられる空間でも、NDクライアントの方々にとっては感覚の過負荷を引き起こし不快な場合も多いようです。


NDクライアントが施設で過ごされる時間の質がご自宅での生活の質に直接影響を与えます。その逆もしかりで、ひいては家族の方々の生活の質をも左右します。例えば 前の晩ご自宅で調子が悪かった場合、次の日の昼間、施設で楽しい時間を過ごしてもらえば、その夜は自宅でも調子良く過ごせる。施設で昼間に具合が悪いと、その晩ご自宅でご本人もご家族もその分しんどくなります。


NDクライアントのご家族をも含めた関係者全員の生活の質を視野に入れると、最大の効果を生むのは、NDクライアントの感覚に配慮した建築デザインと言えそうです。これはそのままNDクライアントの住まいにも当てはまります。良い建築デザインには、健常者の感覚だけでなく、NDクライアントの感覚特性も取り入れることが肝要です。



自閉スペクトラム症や知的障害のある方々を対象にした障がい福祉サービス事業所のトイレ壁面の凹み

既存の障がい福祉サービス事業所の内観

会議の場で手早くザッと描いた平面の図式

施主だけでなく利用者など多様なクライアントの方々から意見や声を募るために用意したスチレンボードのスタディ模型

この度は参加型設計プロセスが求められ、契約上のお施主さんのみならず、施設の現場運営スタッフの方々、利用者の方々からもお声を頂きました。










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